追放されるベンゾー

ナローニアの男魔法使いのベンゾーは、役立たずなのでパーティーから追放されてしまう。
三流酒場のポンノの酒場でしけこんでいると、見知らぬNPCに遭遇する

キノコの洞窟

キノコの洞窟
じめじめした洞窟内を、勇者たち四人が歩いていた
お化けエリンギ:ぴきぴきっ!
暗がりから、キノコの化け物が飛び出した
ひかりん:キャー!
あああ:お化けエリンギだ!
イイコ:きやがったなクソキノコ!アタイが食べやすくしてやる!
露出しすぎな、ビキニ鎧の女戦士イイコが、剣を構えて躍り出た
ベンゾー:危ないダス!ボワワ!
エリンギ:ピギー!
キノコの化け物は、中級火炎魔法であぶられ死んだ

ベンゾー:危ないところだったダス!
イイコ:う、後ろから炎だすな!殺す気か!?
あああ:エリンギごときに、MP使うなクソ魔法使い!
ベンゾー:ワスなんか悪いことしたダスか?
イイコ:くそ!次いこ次
ひかりん:待って!ベンゾーさんMP2しかありませんわ!
女僧侶のヒカリンが驚いた声を上げた

ベンゾー:あれー、ワス張り切りすぎたダス?
ベンゾーが頭をかいた
イイコ:ふざけんなベンゾー!役立たずじゃねーか!
あああ:しゃーない、みんな宿屋戻るぞ
イイコ:ちょっとまだ来たばっかりだろ!?
ひかりん:仕方ありませんわ。全滅したら元も子もありません
ベンゾー:安全第一ダスな!
あああ:お前がいうなよ!

勇者たち四人は出口を目指してぞろぞろ歩き出した
残されたキノコの怪物は、ぷすぷすと煙を上げて、香ばしく香っていた

ベンゾー追放される

日が暮れたころ宿屋に戻った四人。
日替わり定食を注文すると、黙々と平らげた。

あああ:今日は早上がりだから、反省会を開きたいと思う
イイコ:へー勇者はお利口だねー。アタイは生ビール大ジョッキで
あああ:だめだ。今日は全然稼げなかったから、発泡酒で我慢しろ
イイコ:ちぇっ
あああ:はい、反省会を始めまーす。先週に引き続き、地下5階までしかいけませんでした。なぜでしょう?

イイコ:ベンゾーのやつが、MP切れたからだろ
ベンゾー:しかし魔法使えばMP切れるダス
ひかりん:いえ、ベンゾーさんのMP管理がなってないのが、原因だと思います
ベンゾー:え!
ひかりん:ダンジョンの奥深くでMP切れたらどうするんですか?よってお化けエリンギにボワワはあり得ません
ベンゾー:しかし菌類に炎は弱点ダス…
イイコ:あんな雑魚弱点つく必要ねーし。エリンギだぜ?
ベンゾー:そんな余裕には見えなかったダスが…
イイコ:う、うるさいぞ糞魔法使い!

あああ:てかさあ、攻撃魔法にMP使うってありえなくね?
ベンゾー:え!?
あああ:普通物理で殴って、MPは回復のために温存しとくべきでしょ
ひかりん:同感です。今時雑魚戦は”呪文を使うな”が定石です
イイコ:いちいち魔法使うより、殴ったほうがはえーし
ベンゾー:しかし防御力高い敵もいるダス…
イイコ:いや普通に殴れば倒せるし
ベンゾー:…
イイコ:多少効率落ちるけど、物理で普通に倒せる。MPも減らねーし
あああ:そうそう。魔法職より、もう一人物理アタッカー入れたほうが、効率も上がると思う
ベンゾー:勇者さんまで一体何を…魔法使いと言えばパーティーに必須の職業ダス!?

あああ:その発想がもう古いんだって。つーわけで、新しく14歳の武道家(女)いれるから、ベンゾーさん抜けて?
ベンゾー:そんな小娘を素手でモンスターと戦わせるつもりダスか!?
ひかりん:でもベンゾーさんより絶対強いと思いますよ
あああ:男魔法使いより、女武道家のほうが力もHPも上だしな。
ベンゾー:そんなバカな…25の男のワスが14の女に力で負けるはずが…
イイコ:現実見ろよ。魔法使いは絶対弱いから。HPも低すぎるし
あああ:そう、いずれカバモスと戦うことを考えたら、HPが低いってのは致命的だわ。ブレスとかであっさり死なれると困るし
ひかりん:HPが低いと、私の回復も間に合わないんです

あああ:というわけで、ベンゾーさんをリストラに賛成の人
三人:はーい!
あああ:はい、多数決の結果、ベンゾーさんには、パーティーぬけてもらいまーす
イイコ:じゃあなベンゾー
ひかりん:早く死んでくださいね
ベンゾー:ひ、ひどいダス!
ベンゾーは宿屋を飛び出し、夜の街道に消えた
追放された方は、とっと消え失せるのがナローニアの掟である

ベンゾーの面接活動

勇者一行のパーティーリストラされたベンゾー。
一攫千金の冒険をあきらめ、魔法使いギルドへの就業を目指していた

スーツ姿にネクタイ、革靴のいでたちで魔法ギルドの戸をたたいた
面接官:ベンゾーさんは今までどんな職業やられていました
ベンゾー:主に魔法使いをしてたダス
面接官:ちなみに魔法使いではどんな魔法を使われてました
ベンゾー:そりゃ攻撃魔法一筋ダス
面接官:回復や補助魔法の実務経験をおありですか?
ベンゾー:魔法使いはそういうの覚えないダス
面接官:いや~今時攻撃魔法のみで、入れてくるギルドはなかなか…
ベンゾー:な、なんでダス!?
面接官:普通ボス戦に備えて、回復か補助魔法つかえる人入れるじゃないですか。
ベンゾー:しかし攻撃魔法なら、雑魚どもを一網打尽にできるダス
面接官:いやでもボス戦で詰んだら元も子もないっていうか…
ベンゾー:そ…そうダスか…
面接官:あ、薬剤師のスキルをお持ちですか?回復アイテムの調合に携われるので、引く手あまたですよ
ベンゾーはため息をついた。薬剤師は6年制の錬金大学を卒業しないと取れない資格
ベンゾー:持ってないダスが、努力して何とか…
面接官:君ねー、君の歳でスキルをもってないってことは、努力してないってことだよ。そんな人を雇いたいと思う?
ベンゾー:そっそんな…
面接官:じゃ結果は後日連絡するから。お疲れさまでした

ベンゾー(落ち込んでいたらダメダス!さっさと次の面接いくダス!)

次の面接
ベンゾーはドアをたたいた
面接官:入って
ベンゾー:初めましてダス!私魔法…
面接官:挨拶は結構。手短に済ませましょ。ステータスオープン!
男の前にスクリーンが表示された。
スクリーンには魔法使いの顔画像が入っており、どうやら魔法使いのいろいろな数値が記載されているらしい
面接官:へー君この年まで魔法使い一筋なんだ。まじめだねー
ベンゾー:は、はあ…・
面接官:え、君攻撃魔法しかスキルないの?25歳でしょ?今まで何やってたの君?
ベンゾー:わ、わスは魔道の道を究めようと、日々精進して…
面接官:近眼とか水虫とか何このゴミスキル?
ベンゾー:そりゃスキルじゃなくて持病…
面接官:うーん君の年齢でこのスキルはなあ…チートスキルないと無理
ベンゾー:チートスキル!?
面接官:錬金とか時間操作とか最強スキルだよ
ベンゾー:???
面接官:大賢者スキルもちいねーな…はあー中途採用ガチャ当たんねーわ…
ベンゾー:そ、そんなスキルシートなんかで何がわかるんダスか
面接官:私はスキル鑑定士のスキルを持ってるから、見ただけで能力丸わかりだよ
ベンゾー:しかし普通会ってみて、人柄で判断するべきでしょう!?
面接官:は?人柄って、設定厨か?普通キャラは見た目が全てだろ?薄い本だって絵柄で選ぶだろ?
ベンゾー:…
面接官:つーわけで、うちはネタとか縛りプレイはしてないんだ。不遇職は帰ってくれ
ベンゾーはとぼとぼ面接室から退出した

ベンゾー:何の手ごたえもない。今日のところは一杯やるダスか
ベンゾーは人が行きかう外の通りを歩きながら、スマホを取り出した
時間は午後二時。午後の面接は終わったので特に今日の予定もない
ベンゾーはスマホのマップを開くと、酒場を検索した

今いるナローニア首都にはいくつか酒場がある
どこも星4.5で、美人のエルフNPCが接待してくれる
しかし酒の料金が高めだった。貧乏なベンゾーにそんな金はない

その中に一つだけ星一つの店があった。
ナローニア旧市街に存在するポンノの酒場
”性悪ウサギのNPCにサイフすられた”
”ウェイトレスがリザードマン。しかも不愛想”
と悪評レビューだらけ。だがメニューの酒が安い
ベンゾー:まあ酒なんてどこで飲んでも中身はおなじ。行ってみるダス

ポンノ酒場

冒険者が安い酒を求めて集まるポンノの酒場。
冒険者風の男二人が、スマホ片手に世間話にしていた

男:おい聞いたか?勇者のパーティーがダンジョンの20階層に到達したらしい
男:まじかよ。魔法使いをリストラしたパーティーだろ
男:ああ。なんか新しく加わった女武道家は、二回攻撃スキルをもってるらしい
男:二回攻撃…。チートではないが、”強スキル”だな。単純に攻撃力が二倍にもなる
男:それだけじゃない。なんでもそいつは”おてんば”属性もちの"姫"らしいぜ…
男:”素手で戦うおてんば属性の姫”だとゴクリ…聞いただけでもう”強キャラ”感あるな…
男:ああ。ガチャのSRで水着とサンタコスもあるに違いない

ベンゾーは聞き耳を立てていたが、男たちが何を言っているのか理解できない

男:それに魔法使いのかわりに武道家が入ったことで、勇者のパーティーのバランスもよくなった
男:そうか?魔法は僧侶だけになるから、物理に偏りすぎてないか?
男:攻撃魔法はすぐMP切れる。むしろ物理+回復のみのほうが安定する。それに…
男:それに?
男:いま勇者のパーティーは勇戦武僧の前衛三人パーティーだ。パーティーの平均的なHPが上がって、タフネスが格段に増した
男:たしかに。魔法使いはHPが少なくて、すぐ死ぬからな。馬車要員としてはいいが、スタメンにはできんな

男がスマホの、課金美少女ゲームの画面を眺めていった

男:女は専用装備あるし、かわいいしな。しかし男の魔法使いはなあ…
男:チー牛の魔法使いなんて普通育てん
男:それにだ…今時プレイヤーが男魔法使いだからな、入れる必要はない
男:どういう意味だ?
男:30超えた独身男はやがて魔法使いになるのさ
男:ははは!これはおかしい!

酒場の片隅のテーブルで、一人やけ酒をあおるベンゾー
男たちの談笑がベンゾーにずばずば突き刺さって、心が瀕死だった

ベナとテイザ

ベンゾー:…男の魔法使いなんて、今時いらないんダスか…
ベナ:そんなことないミ!
見知らぬウサギの男が近寄ってくると、モコモコと口を開けた
ベナ:おじさんは浮かない顔をしてるミ。悩みをあげるミ
ベンゾー:君は誰ダスか?
ベナ:ベナだミ。まず一杯おごってくれミ。生ミルクで乾杯ミ

ベンゾー:ワスはもう金なんかねえダス
ベンゾーは財布をひっくり返したが、何も出てこなかった
ベナ:ベナにフォーカスして、このアイコンをクリックするミ
フリードリンク?いわれるまま押すと、チャリーンと音がした。
するとリザードマンのウェイトレスがジョッキを二つ持ってきた

テイザ:フリードリンクだ。プレイヤーはNPCに一杯だけただでおごれるんだ
ベナ:テイザ、サンキューミ!」
ベンゾー:ちゃっかりしとるウサギさんダスな
ベナ:ウィンウィンだミ!お前のようなすかんぴんに誰が話しかけるかミ!

テイザと呼ばれたリザードマンは、身を乗り出してテーブルにジョッキを置いた。
ベンゾーの顔はテイザの肉体にまじかに迫り、レースアップシャツ包まれた豊満な乳房を凝視していた
次いでベンゾーはテイザの横顔をちらりと見た。
モダンリザードマンと呼ばれる種族のテイザの顔は、人間とリザードマンの中間で、すべすべしていた。
右目はウィンクしているように見えたが、もともと瞼が閉じたままで隻眼だったのだ

テイザ:じゃあな」
テイザは不愛想に言うと、背中を向けて、カウンターに戻っていった
その尻のふくらみの上に揺れる小さなしっぽを、ベンゾーは意図せず凝視していた。

ベンゾー:いかんいかん…」
ベンゾーはテーブルに視線を戻した。
ベナと名乗るウサギ男は、ジョッキに注がれた牛乳をごくごくと飲んだ。
ローブを着た魔法使いのような風貌をしており、身長は大人の半分ぐらいだった。
おもちゃのような星型ステッキを、テーブルの上に置いている

ベナ:ぷはーやっぱウサギにはミルクだミ
ベンゾー:ベナちゃん。君は何なんダスか?
ベナ:ベナはフリーのウサギ魔法使い(無職)だミ。
ベンゾー:フリーのウサギ魔法使い?どんな仕事なんダスか?
ベナ:み、みんなの悩みを聞いてあげるのが仕事だミ!フリーだから働き方にはこだわらないんだミ!
ベンゾー:ええ心がけだす。けどもワスは仕事もなく無一文ダス
ベナ:お金などではないミ!ベナが欲しいのはお客様の心だミ!さあ悩みを聞かせるんだミ

ベンゾーは強引すぎるウサギの男に面を食らった
しかしほかにすることもない
渋々パーティーからリストラされたいきさつを語った

スキルなしベンゾー

語り終えると、ウサギ男はしみじみとうなずき、その長い耳がふにゃふにゃと上下した。
ベナ:ふむふむ。”エリンギ相手に魔法使って、MPが切れた。それが原因でパーティーから追放された”?当たり前だミ!
ベンゾー:…ワスが未熟だったとはおもってるダス。しかしすぐに追放するなんてあんまりダス…しかもワスを誰もパーティーに入れてくれん
ベナ:リストラってそういうもんだミ。役立たずはさっさと路頭に迷って死ぬミ
ベンゾー:ひどい!励ます気があるんダスか!?
ベナ:じ、事実だからしょうがないミ!なろうではここから見返すイベントが始まるんだミ
ベンゾー:ワスはそういうガチャとかスキルとはなんことかさっぱりダス…
ベナ:そうかスキルだミ!スキルを活かした仕事をつくのが、最近の流行りだミ
ベンゾー:しかしワスは勉強だけが取り柄の浪人生。なんのスキルもないダス
ベナ:そんなことはないミ!人には何かしらスキルがあるんだミ!ステータスオープン!
ウサギはきょろきょろ見渡しながら、周りの人々を順に指さして言った
ベナ:例えばあのおっさんは【隠屁】『すかしっぺ』を持ってるミ。音を出すことなく放屁するステルススキルだミ。学生や社会人には必須のスキルだミ!
ベナ:その隣の男は、【自慰】『オナニー』を持ってるミ 陰茎に適度な刺激を与えて、性的快感を得るスキルだミ。ソロでレベル上げ可能な優良スキルだミ!
ベナ:あそこの女は【社交礼儀】『ビジネスマナー』スキルを持ってるミ。社会人が企業で働く上でのマナー(wikipediaより)だミ。ナローニアでは自慰以下のゴミスキルだミ!

ウサギは早口で語って肩で息をし始めた
ベナ:ぜえぜえ…どうかミ?誰しもゴミみたいなスキルをもってるんだミ!
ベンゾー:ベナちゃん。ワスはそんなスキルすらないダス
ベナ:そんなことないミ!ステータスオープンだミ!
ウサギはベンゾーのステータス画面を開いた
ベナ:ま…まさか…ありえないミ…
ウサギはかくかく震えながら、口から泡を吹きだした
ベンゾー:ちょどうしたんダスか
ベナ:【童帝】スキルだミ…
男たち:【童帝】だと!?
周りの男たちが一世にざわめき始めた
男たち:まさか…
男たち:信じられん…
男たち:【童帝】とは不浄との接触を断ち切ることによって得られる"神聖"スキル
男たち:穢れなき魂を持つ聖者しか取得できないSR(スーパーレア)級スキルだ…
男たち:それをあの齢で…信じられん
ベンゾー:で、それがいったい…
ベナ:それだけじゃないミ!ベンゾーは【無色】スキルもあるから、【童帝】の上位スキル【無色童帝】保有者なんだミ!
周りのざわめき一層強くなった
男たち:な!【無色童帝】だと!SSR(スーパースペシャルレア)級スキルだ…
男たち:【無色】に【童帝】だと…この二つがそろったらもう"無敵の人"じゃねえか…
男たち:みんな偉大な【無色童帝】を称えろ!
男たち:童帝!童帝!童帝!
ベンゾー:…で、それは何の役に立つダスか?

ベンゾーがそういうと、みんな黙ってしまった

ベンゾー:やっぱりワスみたいな、才能のない魔法使いなんてダメなんだスか…
ベナ:正直人間男の魔法使いなんて、エルフの劣化みたいなもんだミ
ベンゾー:ワスは力もなくて勉強だけが取り柄だったから、魔法使いを目指したのに、あんまりダス…
ベナ:まあ生きている価値のない人間なんていくらでもいるミ。気にすることないミ。
ベンゾーは泣き出してしまった。ベナは気にせずジョッキの残りに口をつけた

戦いの予兆

村人:先輩!やばいです!
村人の青年が酒場に勢いよく入店してきた
GM:どうした!?やっぱりまずかったのか!?
村人は一目散に別の男のテーブルに突っ伏して言った
村人:いくら脳筋が多いからって、物理無効はやりすぎ!
GM:どんだけ被害出た?誰が倒した?
村人:それどころじゃない!あのスライムめちゃくちゃ育って手に負えない!
GM:まじか…
村人:今ここにプル(おびき寄せ)してきたから、何とかしろ!先輩があのスライムの企画出したんだから!
GM:はあ…テイザ、ベナ、聞いたか?何とかしてくれ

リザードマンの女ウェイトレスのテイザは男の前に、水のグラスを置いた
テイザ:ああ。でも平場で戦うのは厳しいな。店を犠牲にするしかない
GM:わかった。もともと俺がいけないんだ。全部責任取るよ
ウサギのベナが目をキラキラさせながら言った
ベナ:いくらぶっ壊しても、修理費はいらないってことかミ?
GM:ベナ、この店だけだ。ほかは面倒見切れない
男が水のグラスを一気飲みしていった。
男:GM頼んだぞ!おい!みんな逃げろ!
そういうと店の客たちは一目散に店から逃げていった

外から大きな悲鳴が上がる。ズシーンと大きな地鳴りが徐々に近づいてくる
ベンゾーはあっけにとられている。いったい何が起こってるんだ?
テイザ:ベナ、こいつ(ベンゾー)は魔法が使えるんだな?
ベナ:そうみたいだミ!MP切れたら、肉壁ぐらいにはなるミ
GM:俺は手伝えない!三人で何とかしろ!」GMも逃げ出す
ベンゾー:あ…あのワスは
テイザは轟音に対抗するため大声を上げた
テイザ:ベナ!ここに落とせ!急げ!
ベナ:まかせ…ミ!!
ズドーン!轟音と共に酒場の天井を突き破って、巨大なスライムが降ってきた。
弾き飛ばされる三人

ジャイアントスライム戦

巨大なスライムは酒場の中央で鎮座していた
テイザは転がりながら、素早く酒場のカウンターの裏に逃げ込んだ
尻もちをついていたベナとベンゾーは
巨大なスライムは、二人を見下ろし迫ってきた

ベナ:あわわ…
テイザ:二人とも時間を稼げ!
ベンゾー:無理ダスって!」
ベナ:何とかするミ!勉強の成果を見せるんだミ!」
ベンゾー:こうなりゃいちかばちかダス!ボワワ!(中級火炎魔法)」
火炎放射のような炎が巨大なスライムの表面を熱した。ぐつぐつ蒸発し、スライムの巨体を後退させた
ベナ:やった!効いているミ!」
しかし火炎放射はすぐに止まってしまった。
ベンゾー:アカン!MP切れたダス!
ベナ:全然だめだミ!リストラされて当然だミ!」
プスプスと煙を上げたスライムはベンゾーに突進。
ガシャーン!
ベンゾーは弾き飛ばされてテーブルにたたきつけられた

ベナ:やばいミ!
スライムは巨体で突進してベナを押しつぶそうとした。
しかし酒場のテーブルと椅子の間を這って、ちょこまか逃げ回るベナ
ベナ:ミミミ!
テイザ:いいぞ!もう少し粘れ!
テイザの右目が開くと赤く輝いた
するとスライムの動きが止まった。収縮したと思うと、突如その反動で膨張してはじけた
ベナに向かって四散したスライムの体液が降りかかる。
ベナ:えええ!!
スライムの体液は液体になって四散したように見えたが、凝固して液体の触手に変わった
ベナのローブの裾に液体の触手が絡みつくと、ベナはさかさまに触手に持ち上げられてしまった
ベナ:ミーッ!!!
スライムが口を開くと、吊り上げたベナを丸のみにしようとしていた。しかしその時
ボン!
スライムの体の内部で爆発が起こり、体が抉り取られ四散した。
ベナは触手から解放され、地面に落下した
爆発式ファイアボールがスライムの体に命中し、内部から破裂させたのだ
テイザの開かないはずの隻眼が赤く輝いている

ベナ:やった!さすがテイザだミ!」
ベナは軽いので、落下してもなんともなく元気だった
テイザ:ダメだ…火力が足りない…
テイザの額に汗が垂れ、荒く呼吸を繰り返していた
四散して煙が上がるスライム。しかし体液がどろどろ流れて集まると、また合体して巨大化なジャイアントスライムに復元してしまった
ベナ:あわわ…
ベンゾー:ワスが囮になるダス!二人とも逃げて!
振り返ると、崩れたテーブルの上に、ボロボロのベンゾーが起き上がっていた

テイザとベナはベンゾーを一瞥すると、お互いに顔を見合わせた。
ベナ:テイザ!そろそろ着弾するミ!あとはベンゾーに任せるミ!
テイザ:そうか…よし逃げろ!
ベンゾー:えええ!!
一目散に別の出入り口から逃げるベナとテイザ。ベンゾーはぽかんと取り残されてしまった。ベンゾーに迫りくる巨大スライム
ベンゾー:そ…そんな殺生な…!!
スライムは触手を天井高く掲げて、まるで蛇の鎌首のように、ベンゾーに襲い掛かろうとしていた
その光景を呆然と見上げるベンゾー。しかしその表情がみるみる驚愕変わっていく。スライムの背後の、穴が開いた天井から、巨大な隕石が迫ってきていたのだ

勝利と犠牲

ポンノの酒場から、勢いよくテイザとベナが飛び出してきた
テイザはヘッドスライディングで、姿勢を低くしたまま勢いよく地面に倒れこんだ
ドゴーン!
酒場に隕石が降ってきて衝撃派が走る。
テイザは倒れこんでまま、四散する爆散物から身を守った
隕石の衝撃が収まると、静かになって、そのあと見物人たちが何事かとごった返してきた
テイザは体が砂だらけで、ウェイトレスの衣装がボロボロになっていた

テイザ:はあはあ…
テイザは、腹ばいになって荒い呼吸を繰り返していた
GM:お手柄だったな。酒場におびき寄せて、隕石でズドーン。慣れたものだ
見上げるとGMがいて、テイザに手を差し伸べた。
テイザ:ううう…
テイザはGMの手をつかんで、上半身を起こした
テイザはまだ軽く動揺していて、顔と衣服が砂だらけになっている
GMはテイザの顔を覗き込んで、意識が正常か見て取った
テイザの隻眼から血の涙が流れている。使い終わったルビーアイが流れ出た結晶物だ
GMは慎重にその血の涙の跡をぬぐい取った。誰かに見られてはまずい

GM:おいしっかりしろ。勝ったんだぞ?
テイザ:…あんたが手伝ってくれれば楽だったんだが?
GM:おいおい!GMは手伝っちゃダメなんだ。それに報酬が減るのはやだろ?
ベナ:そうだミ!ラストヒットはベナのもんだミ!
真っ黒なベナが元気に近寄ってきた。爆破の煤に巻き込まれたらしい

テイザ:ベンゾーってやつは死んだかな?
ベナ:まあ貧乏そうだったから、無料リスポンみたいなもんだミ
GM:お前らベンゾーさんにスターフォールの説明してなかっただろ。おかげで巻き込まれちまったぞ
ベナ:結果オーライだミ!酒場に取り残されたおかげで、スライムごとやっつけたミ!
テイザ:ああ。あれは落ちてくるまで時間かかるからな

GMが酒場の瓦礫に歩み寄りどかすと、真っ黒こげのベンゾーが倒れていた
テイザ:GM、ベンゾーは平気か?
GMがベンゾーの瞳孔を開いて確認する。反応が一切ない
GM:全然だめだ。店もベンゾーさんも俺がリスポンしておくよ。二人とも今日は別の宿に泊まってくれ
ベナ:テイザ!うまいディナーをだす宿があるミ!一緒にくるミ!
テイザ:ああ…
テイザはベナに手を引っ張られて、よたよた歩き始めた
聴衆たちもやがて酒場の瓦礫に興味を失って散開とし始めた。