黄金の風NVR(ナローニアバーチャルリゾート)
サトシはあたりを見回すと、さっきまでの曇り空は嘘のように晴天だった
モダンな外装のリゾートシェアハウスの前にいた
風の音と木々がそよめく音がするあたり、崖の上のような高所に構えた住居
緑生い茂る崖の斜面には、色とりどりのパラソルが立ち、遠くからには青い海が一望できる
ジョルノ:ここがうちのNVR。ギルドハウスみたいなものだ
サトシ:まるでリゾートの別荘みたいじゃん
ジョルノ:驚くのは無理はない。うちのギルドハウスはバーチャルリゾートなんだ
サトシ:バーチャルリゾート?
ジョルノ:セカンドライフを極限まで進化させたようなものだ。高級シェアハウスを完璧に体感できる
NVRにはプライベートプールがあった。
サトシは透き通った水面に手を入れた
サトシ:プールの水が冷たい…リアル過ぎない?
ジョルノ:最近のVRはそれほどリアルなんだよ。中を案内しよう
黄金の風のギルドハウスに招待されたサトシは、その内装に驚く。
MMOのギルドハウスではなく、開放的なガラス窓で景色を一望でき、リゾート地の高級シェアハウスのようだった
フローリングと明るい室内を進むと、ビリヤードに打ち込んでいる男と女がいた
:紹介しよう。ミスタとトリッシュだ
ミスタとトリッシュが振り向くと、握手を求められた
トリッシュ:鑑定士なんでしょ?助かるわ
ミスタ:俺たちの命運はお前にかかってるんだ。頼りにしてるぜ
サトシ(なんでこいつら鑑定士を頼りにしてるんだ?鑑定士はゴミ職業のはずだが
ミスタ:リーダーちょっと話がある
ジョルノ:わかった。トリッシュ、サトシにちょっと中を案内してやってくれないか?
トリッシュ:いいわよ。サトシ来て
サトシ:うん。しかしすごいなー本当にシェアハウスに住んでるみたい!
トリッシュ:すごいでしょ。ダサいギルドハウスとは違う次世代式なの
サトシ:これが…NVRっていうギルドハウスなの?
トリッシュ:まあそう。ナローニアバーチャルリゾートの略なんだけど
サトシ:こんなギルドハウスってどこで買えるわけ?見たことない
トリッシュ:今はちょっと無理かしら?サービス初期に競売で買ったものなんだけど
サトシ:いくらぐらいすんの?すごい住んでみたい!
トリッシュ:買ったときは1000NRO。今じゃその10倍ぐらいが相場
サトシ:まじで!買った時が10万円で、今100万円になってるの!?ギルドハウスにそんな大金だすなんて聞いたことがない!
トリッシュ:まあそうね。でもNVRは単なるギルドハウスじゃない。NFT資産の扱いで、今すごい高騰しているの
サトシ:NFT…って、なんだっけ?」
トリッシュ:まあ…ビットコインとかイーサリアムみたいな仮想通貨の一種って思えばいいわ」
サトシ:ゲームの家が仮想通貨になるって…頭おかしくないか?」
トリッシュ:おかしいかもね。でもNVRは“住めるNFT”なの。
ナローニアをプレイしてない人ですら、『ここに住みたい』って言い出すくらいよ」
サトシ:……もうなんか、次元が違いすぎる」
NVR内の執務室では、ジョルノとミスタが密談していた
ジョルノは執務机に座って足を組んでいた。
ミスタは机の前にたって落ち着きなくぶらぶら歩いている
執務机の前には奇妙な形の矢が置かれている
ミスタ:しかしなんでリーダーはサトシみたいなC級鑑定士をスカウトしたんだ?
ジョルノ:セワシさんからの推薦で、かつたまたま支援職だったからさ
ミスタ:だからといって別にC級鑑定士なんていらないだろ?もっと上級の僧侶やら魔法使いを引き抜けたはずだ
ジョルノ:その通り。要するにサトシは”選ばれし者の矢”の実験台なんだ。後々のことを考えればランクが低くて弱い奴。しかも無名なほど都合が良い。これがプランAだ
ミスタ:どういうことだ?
ジョルノ:ランクの高い奴は死んでしまったら大事件になる。殺害の容疑がかかって凶器も押収される。つまり最悪”選ばれし者の矢”を没収されるリスクがある
ミスタ:なぜ支援職にこだわった?
ジョルノ:もしSランクスキルに覚醒した場合のことを想定してのものだ。強い奴がSランクスキルを得ると僕たちにも制御できなくなる。逃げられたり逆襲される恐れがある。サトシのような非戦闘職ならそうなる前に始末するのも容易だ
ミスタ:じゃあとっとと”選ばれし者の矢”を使うつもりなのか?
ジョルノ:それは気が早すぎる。不信感を持たれて拒否されたり、本人の同意なく実験すれば後々恨まれて、逆襲される恐れがある。当初の目的はあくまで有能なチームメイトをスカウトするためだ。
ミスタ:まどろっこしいな。どうするつもりなんだ?
ジョルノ:ここからはプランBになる。とりあえずBランクのクエストにサトシを加えよう。その働きぶりしだいでは”選ばれし者の矢”の実験台にする必要もなくなるかもしれない。お互いにとってそれが最善だろう
ミスタ:役立たずだったらどうするんだ?鑑定士って分析だけが得意な屑職業だろ?
ジョルノ:その時は当初のプランAを実行する。最大限同意を得てズドンということだ。それでサトシがSランクスキルに覚醒して、僕たちのチームに入ってくれれば目論見通りの成功になる
ミスタ:失敗したら?
ジョルノ:それはプランCというべきなのかな?サトシはクエスト中に死んだことにする。選ばれし者の矢が露呈することもない
ミスタ:あんた感心するほど恐ろしいな。さすが俺たちのリーダーだ
ジョルノ:この矢はお前が使うことになるが、発射して貫通させる武器はあるか?
ミスタ:至近距離でも狙えるクロスボウのような武器を用意する。その辺は俺が準備する
ジョルノ:結構