ポンノの酒場は、安酒を求めて冒険者がごったがえしていた
サトシはテーブル席に座って、ウェイトレスのテイザの後姿を追っていた
ベナ:サトシィ。Sランクおめでとうだミ
人相の悪いウサギのマスコットが目の前に座っていた
サトシ:やあベナ。テイザと仲良くやってる?
ベナ:お前はCラン鑑定士だったはずだミ。いつの間にそんな出世したんだミ?
サトシ:黄金の風にスカウトされたおかげさ。俺の実力じゃないよ
ベナ:ふ~ん。じゃあなんでお前はそこのリーダーになってるんだミ?
サトシ:い、いや、いろいろあってさ
ベナ:聞かせるミ!今なら無料で聞いてあげるミ!

サトシはCランクの青い野犬を追放され、Sランクの黄金の風にスカウトされた経緯
そしてSランクに昇格したのち、黄金の風に裏切られ、暗殺されそうになった顛末を語った

ベナ:そんなにいろいろあったんだミ?信じられないミ
サトシ:なあ青い野犬ってどうなってるの?復帰できないか考えてるんだけど
ベナ:どうして追放されたCランクチームに帰りたいんだミ?
サトシ:俺が黄金の風にスカウトされたのは、セワシの推薦があったかららしいんだ。何か事情があって、追放したのかもしれない
ベナ:そこまでは知らないミ。ただ青い野犬がDランクに降格したのは知ってるミ
サトシ:え!?どうして!?
ベナ:新人の僧侶をスカウトして、商隊護衛クエストを受けたミ。それが無茶なクエストで、僧侶にも逃げられ、失敗したミ。そんで降格だミ
サトシ:セワシは無茶なクエストなんか受けないよ?
ベナ:逃げた僧侶はそういってるんだミ。僧侶はパワハラが酷くて逃げて、別にチームに入ったミ。セワシのチームは悪評が広まって、誰も入ってくれなくなったミ
サトシ:嘘だろ…そんなの信じられない
ベナ:でもお前だってセワシに追放されてるミ?そんなチームに入りたい奴はいないミ
サトシ:セワシはあれで面倒見のいいやつなんだよ。Eランクだった俺を拾ってくれたのはセワシだし

突然酒場の入り口でバタンと、大きな音がした
入り口のほうに向きなおると、セワシたち青い野犬が包帯まみれの姿で倒れかかっていた
サトシ:セワシ!?どうしたんだ!?
セワシ:…サトシかよ
サトシ:お前平気かよ!傷だらけじゃん
セワシ:ちょっとクエストで怪我しただけだ。
サトシ:お前降格してやばいんだろ?一人かけてるのに、無茶なクエスト受けてるんじゃないか?
ヨシオ:クエストは完遂した。問題ない
セワシ:俺たちを笑いに来たのかサトシ?ずいぶんランクが上がったな。
サトシ:何言ってんだ?あんたが俺を黄金の風に推薦してくれたおかげだろう
セワシ:それは…
サトシ:チームに空きがあるなら俺を入れてくれないか!
マホリン:え、うそでしょサトシ。私たちあなたを追放したのよ?
ヨシオ:お前には謝らないとならない…
しかしセワシが険しい顔で割って入ってきた
セワシ:鑑定士なんてチームにいらないね
サトシ:俺はいまSランクになった。もうあんたらの足手まといにならない
セワシ:聞けば黄金の風は全滅したそうじゃないか。お前という鑑定士がいながら。
サトシ:あれは俺のせいじゃない。チームが裏切って同士討ちを始めたんだ
セワシ:お前の図々しい態度に問題があったんじゃないか?お前は死神だ。失せろ

サトシは唖然としていた
セワシたちはその横を通り抜け、空いているテーブルに向かった
テイザ:情けないな、サトシ
サトシははっとした。横にウェイトレスのテイザがいたことに気が付かなかったのだ
サトシ:いや…俺は…
テイザ:お前、鑑定士なんだろ?分析しろ
すれ違ってカウンターに歩いていくテイザ。テイザの尻の小さなしっぽが揺れる
サトシ:クソ!

サトシはあたりを見回すと、酒場の隅の暗がりに陣取った。
ベナ:サトシ!どうしたんだミ!?
ベナはぺたぺたサトシの横に駆け寄った
サトシ:ステータスオープン
ベナ:サトシなにやってるんだミ?
サトシ:情報を分析してるんだ
ベナ:誰を分析してるんだミ?
サトシ:嘘だろ…
ベナ:何なんだミ?
サトシ:あいつら全員死ぬって、そんなまさか…

ナローニア運営開発室
吉田:アダム、ナローの件って解決したんですか?
アダム:うん。サトシ君と話してすっぱり解決した
吉田:回収できたってことすかね?そのサトシ君はチートスキルに覚醒して、暴れたりしてないですよね?
アダム:う、うん。たぶん大丈夫…
吉田:ふーん。ところで取り急ぎ一件要望あるんすけど?
アダム:何?
吉田:土竜系のモンスターって討伐が容易すぎる。ファーミング楽すぎなので、対策を考えたほういいかと
アダム:ああそれもう対策用意してある
吉田:どんな
アダム:とっておきの土竜を用意して、突如どーんと出現
吉田:それでプレイヤーを全滅させて、見せしめにするって感じすか?
アダム:そう。実装したら強すぎて、みんな死んじゃったけど
吉田:次どの辺に出すつもりなんすか?
アダム:サビレタ鉱山

ポンノの酒場
ベナ:サトシどうしたんだミ?
サトシ:俺が未来予知できるって言ったら信じる?
ベナ:信じないミ
サトシ:明日お前は死ぬとかいったら信じるかな?
ベナ:理由を言えば信じるかもだミ
サトシ:でもその理由がわかんないんだ
ベナ:そんなの信じるわけないミ
サトシ:だよな…
ベナ:サトシ。もしかしてセワシたちの未来が見えたのかミ?
サトシ:そんなことないよ!じゃあ俺明日早いから帰るわ!
ベナ:明日どっか行く予定かミ?
サトシ:うん。サビレタ鉱山

サトシはベナに飲食代を手渡すと、ポンノの酒場から勢いよく飛び出した
時刻はすでに夜10時で、ほてったサトシにとって、ナローニアの広い通りは暗く寒かった
マップナビを開いて道具屋を探したが、すべて夜間閉店していた
ナビではナロキホーテがまだ深夜営業だったので、足早に向かった
時間が惜しいので店内を物色するようなことはなく、ペンギンの店員に回復アイテムを要求した
ついでに尾行と、洞窟内での戦闘に必要なアイテムを相談したところ
カメレオンパウダー、100均短刀、おまけにウォーターの巻物をつけてくれた
会計が終わって、その場で荷物をリュックに詰めると、すぐにログアウトした
明日は早いので、サトシは歯磨きを済ませると、すぐに消灯して眠りについた