ナローニア平原に来た黄金の風一行
平原には恐竜ほどの巨大なイノシシが背を向けてのしのし歩いている
イノシシが横を向くと、顔が土竜だった。
その巨大な異形が地面に腹ばいになると、鼻を地面にこすりつけ、ヒクヒクさせて匂いを嗅いでいる
そのあと後ろ足の爪で、地面を掘り返して土が宙を舞った。

ジョルノ:あれがモグシシだ。巨大なイノシシみたいなモンスターだ。顔が土竜だけど
サトシ:あれは何をしているの?
ジョルノ:特に何もしてない。MMOの敵ってだいたいそんなものだろ?
サトシ:うん…まあやられるのが仕事だし
ジョルノ:あれを今日は討伐したいと思う。あの大きさじゃ剣も銃も全然効かない。逆に怒らせてやられてしまうだろう
サトシ:じゃあどうするの?
ジョルノ:打つ手がないんだ。こんな平原じゃ逃げ場所も、隠れる場所もない。タゲを取ったら、突進されてなぎ倒されてしまう
サトシ:???
ジョルノ:そこで今日は落とし穴を使おうと思う。全員集合
ミスタ:今日はどんな手品をつかうんだ?
ジョルノは四つ折りのA4用紙をポケットから取り出した。それを全員の前で開くと魔法陣らしき図形が書かれている
ジョルノ:こんな感じの大きな魔法陣を地面に書きたい
トリッシュ:これどのくらいの大きさで、どこに書くの?
ジョルノ:全長は20mくらいだ。大雑把に十字線を引くから、そのあと四人で手分けして地面に魔法陣を書こう
サトシ:この魔法陣って何で書けばいいの?
ジョルノ:剣とか杖を使って地面をこすって線を引いてくれればいい。
ミスタ:紙見せてくれなきゃかけねーよ
ジョルノ:心配するな。四人分ちゃんとコピーしてある

ジョルノは剣先で魔法陣をタッチすると、魔法陣がひかり、ゆっくりと中央の地面が陥没し始めた
ミスタが腕を組んでいった
ミスタ:リーダー、取り込み中悪いんだが飲み物頼んでいいか?まだ時間かかんだろ
ジョルノ:ああ。うちのチーム権限で注文できるか調べるから待ってくれ
トリッシュ:あたしものど乾いた
ジョルノ:本来ここでは注文できないが、Sランクチームのボーナスで買えるらしい。好きなやつを頼んでくれ
ジョルノは注文UIをミスタに手渡した
ミスタ:俺はペプシ頼むけど、お前らどうするよ?
トリッシュ:あたしも同じで
ジョルノ:僕はオレンジジュース
サトシ:お、おれは同じやつで
ミスタ:じゃあペプシ二つとオレンジジュースふたつな。リーダー手を出して
ジョルノが手を宙に差し出すと、突然その手のひらに紙コップ入りジュースが召喚された
ジョルノ:ん?缶じゃないのか?
ミスタ:すまん売店が遠いらしく、これしか頼めなかった。トリッシュ
トリッシュが同じように手を宙に伸ばすと、手のひらに紙コップ入りペプシが召喚された
トリッシュ:ありがと
ミスタ:サトシ。落とすなよ
サトシ:え?うん…
サトシはおずおずと手を出すと、突如手のひらに紙コップ入りのオレンジジュースが召喚された。落とさないように慎重につかんだ
ミスタ:最後は俺と
UIをタッチしてすかさず、UIをわきにはさみ、片手をあけるミスタ。その手にジュースが召喚される。
ミスタ:ストロー射してくれ。
すると紙コップの口にストローが召喚され、ミスタはそれに口をつけた
サトシはその光景を驚きながら眺めていた。仮想空間のデリバリー召喚サービスを頼んだのは初めてだった

サトシが穴を覗き込むと地面が盛り返し攪拌され、まるで流砂のように吸い込まれていく
それが永遠と続くと、やがて底が見えないほど深い縦穴が形成された
ジョルノ:これがシンクホールの魔法だ。
サトシ:初めて聞いた
ジョルノ:だろうな。古の落とし穴を掘る魔法陣。今時使う奴は誰もいない
サトシ:どうしてだ?落とし穴を掘るなんて便利じゃないか
ジョルノ:魔法陣系の魔法は強力だが、欠点がある。罠と同じで設置に時間かかるし、罠にはめないと効果がない
サトシ:なるほど
ジョルノ:シンクホールは別の欠点もある。魔法陣が見えるから人間はかからないし、魔法陣を撤去すると穴が土に埋もれてふさがれてしまう。それだけ安全ともいえるが
サトシ:ふむ
ジョルノ:付近の動物を警戒させないように、大きな物音や地響きもない。今時地味で使いどころがないから廃れてしまったんだ
サトシ:へー
ジョルノ:サトシ。巨大猪をおびき寄せてもらえないだろうか?
サトシ:どうやってだよ!?
ジョルノ:この大穴の前に立って、イノシシを大声でおびき寄せるだけだ。簡単だろ?
サトシ:落とし穴って隠さなきゃ効果がないだろ?
ジョルノ:シンクホールの恐ろしいところは、足元を見ないと落っこちてしまうところだ。突進するイノシシであれば間違いなく足を滑らせて落っこちる
サトシ:そっか…
ジョルノ:イノシシが穴に落ちた後、魔法陣を撤去すれば生き埋めにしてやっつけることができる。
サトシ:生き埋めか…そりゃこんな穴に落ちたら死ぬよな…
サトシはオレンジジュースのストローをすいながら、シンクホールの深淵を覗いた
その場違いな大きさと底知れぬ深淵に、サトシは冷たい汗をかいていた

ミスタ:なあ俺どうすりゃいいの?
ジョルノ:奴を撃って怒らしてほしい
ミスタ:あんな化け物銃なんて効くわけねえだろ。撃たれても痛くもかゆくもねえよ
ジョルノ:目とか鼻を狙うのはどうだ?敏感な部位だろう?
ミスタ:そりゃそうか。そんなとこ撃たれりゃ、あのどでかい化け物も怒る
トリッシュ:あたしはどうすればいいの?
ジョルノ:サトシの後ろから花火でも撃つか?そのあとサトシを残して逃げる
サトシ:そんなことする必要あるの?
ジョルノ:モグシシがサトシのほうが突っ込んでくれないと、落とし穴に誘導できない
トリッシュ:サトシを目立つように、魔法でライトアップしたらいいんじゃない?
ジョルノ:ああそれはいいな。紙吹雪やキラキラ光るライトがあれば、モグシシが落とし穴に気づきにくくなるかもしれない
サトシ:そんなの効果あるのかな…

ジョルノ:では準備は万端だ、とっと始めよう。僕とトリッシュがサトシをライトアップする
トリッシュ:了解
バアーン!キラキラスポットライトで輝くサトシ
サトシ:まじか…
ジョルノ:ミスタ!きっちり十秒後に撃て!僕とトリッシュはできるだけ離れる!
ミスタ:了解。10、9、8…
トリッシュ:どこまで走ればいいのよ!
ジョルノ:とにかく離れろ!追いかけられたらひとたまりもない!
バキューン!ミスタがモグシシのしっぽに向かって発砲した
モグシシは振り向いて、光り輝くサトシをにらみつけた
モグシシ:ブモー!
モグシシがサトシに向かって一目散に走りだした
サトシ:ひえええ!
ジョルノ:がんばれサトシ!お前のスキルで何とかしろ!
サトシ:(そうだ俺にはキングクリムゾンがある!
地響きしながら、モグシシの巨体が迫る
サトシ:キングクリムゾン!
ドオーン!時間が消し飛ぶ
モグシシ:ブモー!
モグシシは大穴に足を滑らせて転落した
大穴のふちに激突して、足を引っかけて転落を免れようとしたが、巨体を全く支えることができず、尻から穴に落下した
ゴツ!
モグシシの巨体が壁の巨体に激突する轟音が響き、地震のような振動が響く
サトシ:うわあああ!
サトシは激しい振動で、立っていられず地面に伏せた
ミスタ:完璧じゃねえか…あの化け物は落とし穴に落ちた
ミスタは遠くからその光景を冷や汗を流しながら見ていた
ジョルノ:シンクホールの魔法陣を消せ!穴をふさぐんだ!
ジョルノとトリッシュが駆け寄ってきた
サトシは起き上がると呆然としていた。自分の体は何ともない。背後にはモグシシが転落した巨大な大穴があるだけだった