ナローニア運営開発室
明るいオフィスでアダムと吉田が打ち合わせをしていた
吉田:うちのNPCって、好き放題やりすぎじゃないですか?ユーザー離れちゃいますよ
アダム:そういうのも面白いかな思って
吉田:しかもこのNPCってAI搭載型すよね?普通MMOのNPCってただのbotですよ
アダム:いや斬新かなと思って
吉田:しかもこのAIって自我を持ったリミッターレスですよね?違法じゃないすか
アダム:いやそれは…
吉田:しかも配置まで偏ってますよね?ポンノの酒場とかいう、三流酒場にそいつら置いてますよね。プレイヤーそんなとこ来るんすか?
アダム:…

テイザとサトシは蝋燭を置いたテーブルをはさんで座った
テイザ:蝋燭占いだ。俺とお前の間に蝋燭を置いて、お前を占うことができる
テイザは蝋燭の先端に、人差し指を近づけた
三秒後に音もなく小さな灯が生まれ、ゆらゆら揺れた
点火装置は一切ない。火の魔法を使ったんだろうか?
サトシ:俺はどうすりゃいいの?
テイザ:特に何もいらない。じっとしてろ
テイザは両掌と上半身で炎が風で消えないように遮り、蝋燭の小さな炎を熱心に見つめている。
サトシはそのレースシャツから覗く、テイザの豊満な胸の谷間を眺めていた。
炎の小さな明かりで、胸のふくらみと陰影がより強調されていて目が離せない
一瞬テイザの右目の空洞に蝋燭の炎が映っているような錯覚を覚えた。ないはずのテイザの右目が赤く輝いて見えた

サトシ:なあ蝋燭占いって何がわかるの?
テイザ:何もわかんねえよ
サトシ:え?
テイザ:俺はただ蝋燭の灯を眼窩に写して、ドラゴンの目を模擬召喚するだけだ。それに映る光景をお前に教えてやる
サトシ:???
テイザ:見えたぜ…お前はSランにスカウトされて、Sランクスキルを得て、Sランクに昇進する
サトシ:え、トリプルSじゃん!?すげー!
ベナ:あり得ないミ!?
サトシ:そっから先はどうなんの!?
テイザ:これ以上は追加料金だ
サトシ:え!いいじゃんそれくらい!
テイザ:だめだ。俺はNPCの規則に従っているだけで、これ以上サトシを優遇できない。続きが知りたきゃナロンを払ってくれ
サトシはポケットをあさるが、金がなかった。
サトシ:気になるけどあきらめる。まあ未来は明るいみたいだし、とにかく行動あるのみだな!
席を後にするサトシ

ベナ:テイザなんかおかしいミ!サトシのやつがSランクになれるはずないミ!
テイザ:ちょっとベナに相談したいことあるんだけど
ベナ:なんだミ?
テイザ:俺の占いでは、そのあとサトシは消えるらしい。
ベナ:えええ!?
テイザ:でもなんのことかわからないんだ。お前が分析してくれないか?
ベナ:フーム…サトシのSランクスキルはきっと未来予知だミ
テイザ:なんでだよ?
ベナ:それがなろう系の鑑定士の定番だからだミ
テイザ:そういやナローニアはなろう系モチーフのMMOだったな。
ベナ:そうだミ。でも未来予知はろくな目に合わない。それが物語の定番なんだミ
テイザ:そうなの?
ベナ:便利すぎるから破滅フラグなんだミ。サトシは未来予知で悪いことしまくってBANされるんだミ
テイザ:それなら自業自得だな
ベナ:もう一つ考えられるとすれば、宿命だミ
テイザ:宿命?
ベナ:なろうの主人公はみんな結末にたどり着けず、消えていくんだミ
テイザ:ダメじゃんサトシ…絶対消えるのかよ

テイザがテーブルに肘をついて頭を抱える。それを見ていたベナが言った
ベナ:お前がサトシの未来を変えればいいのではないか?赤き竜の力によって
テイザ:ドラゴンは来るものを拒まない…
テイザの右の眼が赤く輝いた
テイザ:主は迷える者の味方であり、我もそれに倣い、御翼の陰に匿う。しかしそれは降り注ぐ刃の雨を、共に分かつことを意味する