昼間のポンノの酒場では、二人の男テーブル席で酒を飲んでいた
男は見飽きたようにスマホを眺めていて、ナローニアチャンネルと書かれた動画が再生されている
男:おいあの青い野犬がSラン昇格だってよ
男:このまえDランクだったよな?
男:あのシャドウモグラを討伐したらしいぜ。死神とか言われてたやつだ
男:まじか。セワシのやつも汚名返上だな。引退寸前だったのに

酒場の隅のテーブル席で突っ伏しているサトシ。
テーブルの上には、飲み干して空になったジョッキがいくつもある
リザードマンのウェイトレスが、水のグラスを持ってきた
テイザ:おいサトシ、酔い覚ましだ
サトシ突っ伏したまま返事がない。
テイザは水のグラスをテーブルに置くと、ジョッキつかんでカウンターのほうに戻っていった

ウサギのベナがカウンターの上に座り、壁によりかかりながらスマホのゲームをしていた
テイザは集めたジョッキをカウンターの上に置いた
テイザ:サトシのやつおかしくね?元気ないんだが
ベナ:レベルが1にリセット、Eランクに降格されたんだミ
テイザ:この前Sランクだったろ?なんでだよ
ベナ:チートが発覚して、ペナルティ食らったんだミ
テイザ:例のSランスキルを使ったのか?
ベナ:そうだミ。運営に使うなと警告されてたらしいミ

その時、酒場のドアが開く大きな音が響いた
男:おいあれは…
男:噂の野郎たちだ
三人の男女がカウンターに近づくと、先頭の男がテイザに向かっていった
男:サトシのやついるか?

奥のテーブル席で壁のほうを向いて突っ伏していたサトシ。
ビールが入ったジョッキがないか手探りで探していた
手が水の入ったグラスに当たると、倒れて水がテーブルにこぼれてしまった
サトシはグラスのほうに顔を向けると、倒れたグラスからこぼれる水がテーブルに広がる
その水は窓から差し込む光を反射して、キラキラ輝いていた

その水の流れを眺めていると、目の前に見覚えのある男女がいることに気が付いた
セワシ:探したんだ、サトシ。俺たちのチームに戻ってくれ
サトシ:でも俺はもう、足手まといになるだけだ
ヨシオ:水臭いな。もう一度最初からやり直せばいいだけだ
サトシ:でも
マホリン:私たちはただお返しをしたいだけなの。あなたはそれを利用すればいい
サトシ:そっか。どうしようもないんだ。手を貸してくれ
サトシとセワシたちは、光射す明るい出口に溶け込んでいった
野次馬な酒場の男が、彼らが出ていったあと口笛を吹いた

テイザはサトシが使ったジョッキを水で洗っていた
ベナ:これでめでたしめでたしだミ
テイザ:結局俺の占いは外れたな
ベナ:俺が運営にメールを送って何とかしたミ
テイザ:どんなメールをおくったんだ?
ベナ:あいつはチート能力を悪いことには使わない。そのおかげでBANは免れたんだミ
テイザ:そっか
ベナ:なんだかテイザはうかないミ?なんか心配事かミ
テイザ:別に
ウサギのベナの目がぎらぎら輝いた。AIがテイザの表情から、思考を分析しようとしている
ベナ:お前は?をついている。お前の思考は逐一提示しなければならない。赤き竜の信託を受け取れるのはお前だけだ
ベナがテイザの目をまるで機械のように凝視してきて、テイザは生唾を飲んだ。
テイザ:…俺たちはサトシを助けた。でもそのおかげで…
ベナ:おかげで?
テイザ:サトシの運命が、自分に近づいているような気がする
ベナ:それは恋愛感情的な意味か?
テイザ:違う。奴はドラゴンの宿命を自分に導いてしまった