サビレタ鉱山の採掘場跡の大広間

セワシ:ここは明るくて広いな
ヨシオ:リーダー。ちょっと休憩しよう
マホリン:包帯変えたほうがいいと思うわよ
セワシ:すまん。

当たりに無造作に置かれた木の椅子と木箱を集めた
木箱の上に置いたランタンを中心に、休憩を始めたセワシたち
各々椅子に座って、包帯を巻きなおしている

ヨシオ:サトシに戻ってきてもらった方が、よかったんじゃないか?
セワシ:それじゃダメなんだよ
マホリン:どうして
セワシ:あいつは今Sランクに昇進した。またウチに戻ったらCランクに戻っちまう
マホリン:やっぱり追放するのは間違ってたんじゃない?
セワシ:しょうがないさ。あいつが引き抜きを断るから、追放するしかなかった
ヨシオ:あんたがそのあと推薦したおかげで、サトシは黄金の風に入れた
マホリン:でもサトシ一人になってたわよ?
ヨシオ:黄金の風はトップチームだが、黒いうわさが絶えない
セワシ:前のリーダーも何か悶着で死んだという噂だ。サトシも何かいざこざに巻き込まれた可能性が高い

サトシはカメレオンパウダーで物陰に隠れて、その様子を盗み見ていた
サトシ:そんな事情があったのか…知らなかった

手元のステータスUIに目を落とす
サトシ:セワシたちが死ぬまであと20秒。いったい何がおこるんだ…

マホリン:ねえ揺れてない?地震かしら?
セワシ:すぐ止むだろ
ヨシオ:揺れがどんどん大きくなる…何かおかしいぞ
セワシ:地震じゃない…全員武器をとれ!警戒しろ!

サトシは隠れながらあたりをキョロキョロ見回した
サトシ:死亡予知の時刻まであと10秒…何かが近づいている

ドバーン!
突如前方の壁に穴が開き、巨大な黒い土竜が出現した
シャドウモグラ:シャモ?シャモシャモ?
その土竜はエコーする不思議な鳴き声を発した
ヨシオ:何だこいつは…
マホリン:でかいわこの土竜
セワシ:マホリンは下がれ!俺とヨシオが前に出る!

その土竜は光が当たっているにも関わらず、ベンタブラックのように真っ黒
巨大な土竜のシルエットに左右の小さな眼光が輝く

サトシ:あんな土竜見たことがない…AI、あの土竜はなんだ?
AI:シャドウモグラ。石炭を食らい、その体毛は無限の煤をまとう
サトシ:無限の煤だと…

マホリン:ファイアボール!
マホリンからシャドウモグラに向かって炎の球が発射された
シャドウモグラはボワっと黒い輪郭が広がると、真横にかさかさ動いて回避した
まるで黒煙の塊が意志を持つかのように移動している
セワシ:早い…
ヨシオ:どんどん煤が広がるぞ…

シャドウモグラの煤に覆われた輪郭に、赤い眼光が光った
シャドウモグラ:シャモ!
もくもくした黒煙がマホリンに向かって発射された
ヨシオ:マホリン!
ヨシオが盾を持ってマホリンの前に立ちふさがった
ヨシオ:うお!
マホリン:ケホッケホッ!
セワシは黒煙に包まれたヨシオとマホリンに向かって叫んだ
セワシ:おい大丈夫か!?
ヨシオ:真っ暗で、前が見えない…

サトシ:おいあの土竜は何をしたんだ?
AI:スモークミサイル。煙を発射する魔法。殺傷力はないが、視界が奪われる
サトシ:器用なやつだ…ただの土竜じゃないな
AI:シャドウモグラはSランクです。
サトシ:Sランクだと!?勝ち目はあるのか!?

シャドウモグラはセワシたちを中心に、円を書くようにかさかさ動き始めた
動き回るたびに土竜の黒い輪郭から、煤の黒煙がフロアに広がっていく
セワシ:クソ…どんな視界がふさがれていく!
黒煙に包まれて、跪づいて目と口を保護するヨシオとマホリン
マホリン:…こんな土竜見たことも聞いたこともない
ヨシオ:たぶんこいつは…勝てないやつだ…
マホリン:え!?
セワシの怒声が聞こえる
セワシ:土竜の弱点は鼻だ!俺が弱点を突く!それまで耐えろ!

サトシは黒煙に包まれた喧騒から離れた位置で、自分のステータスを確認していた
AI:戦力差がありすぎる。彼らに勝ち目はありません
サトシ:自分の死亡予知は出ていない。三人を見殺しにすれば自分だけ助かるってことか…
AI:それが賢明だと思います
サトシ:…でも見捨てるために来たわけじゃないんだ

セワシは黒い土竜に向かって怒鳴った
セワシ:かかってこい!俺が相手になる!
セワシは黒いモグラに向かって剣を構えた。
シャドウモグラ:シャモモモ!
黒い土竜はセワシにすごい勢いで接近してきた
セワシ:うおおお!
セワシはシャドウモグラに向かって剣を振りかざした。
しかし剣を空を切った。セワシの目前で土竜は突如カクンと横に方向転換したのだ
セワシ:なに!?
シャドウモグラの向かった方向には、黒煙に包まれたヨシオとマホリンがいる
ヨシオ:うぐ!
ガツンと音がして、ヨシオがシャドウモグラに突き飛ばされた
セワシ:ヨシオ!?平気か!?
マホリン:ヨシオ…!?
マホリンは手探りでそばにヨシオが倒れているが分かった

サトシは自分の背負っていた鞄を地面に置くと、水筒を取り出し飲んだ。
そのあと顔面にバシャっと浴びせて、顔をびしょびしょにした
次に鞄から鞘入りの短刀を取り出し、それを腰に差した。
サトシ:土竜の弱点は鼻だったな?
サトシは鞄から一枚のマジックスクロールを取り出し広げた

セワシは採掘場の大広間の中央で、当たりを見回して立ち尽くしていた
セワシ:ダメだ…煤の煙で何も見えない
音と振動でシャドウモグラが、あたりを走り回っているのはわかる。
しかし剣で迎撃しようにも、黒煙でどこにいるのか見当がつかない
セワシ:クソ…最初にサトシの言ってたことは正しかったな…
マホリン:リーダー!?聞こえる!?
煙の中かマホリンの声が聞こえる。セワシは応答した
セワシ:すまん…俺たちは終わりのようだ
セワシはシャドウモグラの気配を感じていたが、方向も距離も見当がつかない
ガツン!
セワシは背中に強い衝撃を感じて、そのまま前のめりに倒れた

マホリン:リーダー!?
マホリンはへたり込んであたりの黒煙を見渡した
目の前に黒い巨大な影が姿を現した。
マホリン:うう…」
黒い土竜の眼光が、マホリンをとらえて赤く光った。
シャドウモグラの岩盤おも掘り進む、鋼鉄の爪が振りあげられた
マホリン:いやああ!
マホリンは恐怖に目を背けた

サトシ:ウォーターランス!
高圧の水鉄砲が黒い煙の中央に向かって発射された
バシャ!
シャドウモグラ:シャモ!?
黒い煙が消えて、毛皮がずぶぬれになった黒土竜が出現した
シャドウモグラは苦手な水をかけられて、びっくりしていた
すぐに水をかけられた背中に向きなおって、赤い眼球がサトシの姿をとらえた
シャドウモグラ:シャモシャモ!
シャドウモグラから黒煙のミサイルが、サトシに向かって複数発射された
サトシ:くっ!?
サトシはマジックスクロールを投げ捨て、黒煙のミサイルから逃れるため、出口の方向に向かって走った

マホリン:誰なの!?リーダー!?ヨシオ!?
マホリンがあたりを見回すと、黒煙が収まり視界が開けていた
ウォーターランスの水蒸気が、煤の粉塵を黒い水たまりにしていた

サトシは次々発射される黒煙を逃れながら出口に向かっていた
サトシ:くうう…
スモークミサイルにダメージはないが、とんでもなく厄介だった
目が痛くて開けていられないし、吸い込むとせき込んで戦えなくなる
サトシの前に坑道の出口が見えた。日光のまぶしい光が差し込んでいる
サトシ:ここでやるしかない
サトシは出口に背を向け、シャドウモグラのほうに対峙した
坑道の外に逃げ出すと、シャドウモグラが追撃をあきらめ、セワシたちがやられる可能性がある
シャドウモグラをおびき寄せるのはここが限界だ
サトシ:来るか…
坑道の中を再び見た。坑道の内部は暗闇が広がっている
ブワッ!
サトシはスモークミサイルの黒煙を顔面に浴び、顔面をそらした
サトシはシャドウモグラに向かって側面を向け、左腕で顔面を保護。隠すように右手で短刀を逆手に向けて構えた
突きではなく渾身の振り回しに特化した構えだった。
体を側面に向けると、相手への視野が狭くなるが、サトシはすでにシャドウモグラを目視してなかった
サトシ:俺には未来予知がある。来る場所も来るタイミングも完璧にわかる
サトシは固く目を閉じた。びしょびしょの顔に水が下たる
シャドウモグラ:シャモモモモ!
シャドウモグラが黒煙をかき分け、怒涛の勢いで突進してきた
サトシに向かって地響きと轟音がまじかまで迫る
お互いがぶつかる瞬間
サトシ:キングクリムゾン!
ドオーン!
その瞬間奇妙なことが起きた。ぶつかりあうはずの両者は、すでにすれ違った後だった
サトシの右手の短刀は宙に向かって突き出していた。上半身をひねって短刀の渾身を繰り出していた
シャドウモグラ:シャモ?
巨大な土竜は何が起こったかわからず、立ち上がって振り返った。
すると突如鼻から勢いよく出血して、当たりに噴射した
シャドウモグラ:シャモー!!
ドスーンと地面に倒れこんだ
サトシ:俺の攻撃が当たった瞬間、1秒間時間をスキップした。そのあとお前が俺にぶつかる瞬間は消えてなくなった
マホリン:誰!?そこに誰かいるの!?
マホリンがサトシとシャドウモグラを追って出口まで来ていた。
サトシ:や、やばい!
サトシは瞼の水滴をぬぐうと、一目散に出口まで走って、坑道から出ていった
マホリン:待って!
マホリンは追いかけようとしたがまぶしい日光の中に、誰かの背中が離れていく姿しか見えなかった
ヨシオ:マホリン!?無事か!?
マホリンはヨシオに肩をつかまれていた
マホリン:誰かが私たちを助けてくれた!

サトシ:はあっはあ
サトシは無我夢中で坑道を飛び出し、林道をかけていた。
サトシ:(俺はお前らが助けてくれたことを知らなかったんだ。だから俺も知られることなく助けるよ