自宅で眠るサトシは不思議な夢を見ていた
隻腕のリザードマンの少女と、赤いドラゴンが星空の下で、向かい合って鎮座している
赤き竜:すべての生けるものには、死すべき定めがある。それを変えるは善行でなく、死神の獲物を横取りするに過ぎない
テイザ:誰かを助けちゃいけないのか?
赤き竜:人間は優劣をつける生き物だ。同じ人の子の命にすら値段をつける。見返りの大きい命を我先に救うが、それは利であって善行ではない
テイザ:サトシは自分や恋人を救おうとしているわけではない
赤き竜:それはむしろ、人の欲に反する善行と言わざるを得ない

次の日
人気のない鉱山へ続く林道
セワシ:よしみんな出発。怪我だらけだが、今日のクエストは簡単だから頑張ってくれ
ヨシオ:おう。マホリンは平気か
マホリン:大丈夫。けがは大したことない

三人が山道を進んでいくと、その背後でちらりと人影が見えた。
サトシ:場所もクエストも予想通りだ…尾行を開始する

サトシの姿は顔面も含め、あたりの木々に溶け込んでいた
カメレオンパウダー。色彩を周囲と同じものにする尾行アイテム。激しく動かない限り、ほとんど目視されない
サトシはステータスUIに目を落とすと、セワシの顔と死亡までの時間が書かれている
これがサトシの未来予知能力で、誰がいつ死ぬかわかる。ただしそれ以上の情報はない
セワシたちが今日ここに来るとわかったのは、昨日のポンノの酒場の出来事から推理した
セワシたちの戦力、コンディション、場所。その三つから絞り込むと、首都周辺のサビレタ鉱山のクエストが該当した
クエストボードから、このクエストは、セワシが引き受けたという確信は得られない。引き受けたプレイヤーの名前はマスクされるからだ
しかしサトシは昨日セワシがクエストボードをタップするのを盗み見ており、その受注日時の一致から、当該のクエストの特定に至った

サトシは木々の後ろの隠れ尾行しながら、セワシたちを助ける方法を思案していた
まず昨日ポンノの酒場で金を払って、セワシたちに今日のクエストをキャンセルさせる方法だ
これは悩んだ末却下だ。
最悪の場合、セワシたちが死ぬ未来予知を信じてもらえず、金だけせびられる。
さらに未来予知を教えたとして、チートのペナルティが実行される懸念がある
そうなった場合、サトシはすべての能力を失ったうえで、セワシたちは死ぬ未来に突入する

総じてSランクスキルを持った自分が、ひそかにセワシたちに迫るアクシデントを処理したほうが良い
そういう結論に達した

サトシがはるか前方のセワシたち三人の姿を眺めた
セワシたちの姿が、鉱山の入り口に吸い込まれていく
サトシ:ここからが執念場だ。あの鉱山で何か起こる。全員死ぬような何かだ…

薄暗いサビレタ鉱山内部
セワシ:いたぞ…モグモグだ」
暗い坑道の先には、土竜が地面から鼻だけ露出させ、クンクンしている
その様子を曲がり角から慎重にうかがうセワシ達
ヨシオ:斥候のモグモグがいるってことは、あたりにモグタンとモグリンもいるってことだな」
マホリン:そうね。うかつに手を出すのは命とりだわ」

モグモグは一見単独見えるので、初心者は倒そうと近づく
しかしモグモグは囮兼、見張りのような存在。
それに知らずに近づくと、突如モグリンとモグタンが飛び出してきて奇襲される
タダシ達はそれを見抜いて慎重に行動していた

セワシ:モグタンとモグリンがどこにいるかわからない以上、俺たちは罠に飛び込むしかない」
マホリン:こんな時にサトシがいてくれたら…」
ヨシオ:情けないことをいうな。今は俺たちだけでやるしかない」
セワシ:ヨシオが先頭、マホリンは後ろにつけ。俺がシンガリで、モグリンの奇襲を警戒する。行くぞ」

地面から飛び出たモグモグの鼻に近づくセワシたち
モグタン:ブモー!」
突如闇に包まれた坑道の奥から、うなり声と地鳴りが近づいてきた
大型土竜のモグタンが突進してくる
ドン!
ヨシオが腰を落として盾を構え、モグタンの突進を受け止めた。衝撃に足が地面に食い込む
ヨシオ:いまだ!」
マホリンは動きが止まったモグタンを、手のひらでタッチした
マホリン:ボワワ!」
モグタンの全身が燃え上がり、丸焦げになって死んだ
モコ!
突如セワシたちの背後の地面が盛り上がった
その土の盛り上がりはすごい勢いで背後から接近してきた
ズボ!
地面からモグリンが飛び出し、セワシの背中めがけてとびかかってきた
セワシ:は!?」
セワシが振り返ると同時に、持っていた剣を一閃。
とびかかるモグリンの体を真っ二つに切り裂いていた。
モグモグ:ピギー!!」
仲間たちをやられ逆上したモグモグは、恐ろしい爪を伸ばし、捨て身でとびかかってきた
しかし連携のないモグモグの攻撃は恐れるに足らなかった
ヨシオはとっさに身を引き、鋭い爪はほほをかすめただけだった。
返す刀で、モグモグはヨシオに打ち取られてしまった

セワシたちの戦いを陰から見ていたサトシ
サトシ:よかった…さすがセワシたちだ」
はっと気が付き、未来予知でセワシ達をもう一度確認した
サトシ:そんな…」
セワシたちの死亡時間は残り10分まで迫っている
サトシ:まだここで何かあるってことなのか…?」
カメレオンパウダーで壁に同化するサトシを残し、セワシたちは坑道を進んでいく