聖王十二将は、その名称とは裏腹に9名しかいない。そこで以下はそれを補完する私作のエピソードとなる。公式設定とは全く関係がないと前述しておく

聖王十二将の名声が高まると、真っ先に否定したのはフルブライト将軍その人だった
そんなものを定めた覚えはなく、浮かれた民衆がくだらない童話になぞらえているの見え透いている
将軍は一徹した職業軍人で、むしろ兵士に「英雄になるな」と諭す人だった
兵士たちにも、聖王十二将と口にするなと一喝した

しかし戦果を挙げるほど民衆はその称号を伝染させていった
四魔貴族に勝利する毎、その勝ち馬に乗りたい諸侯が集まり、聖王十二将に数えられようと、功名争いを始めた
血気盛んな若輩の諸侯が戦果を争い、そうはさせまいと足を引っ張りあった
嫌な予感は的中し、敵を前にして新たな危機に直面する

将軍は親しいレベッカ(将軍の娘でアディの義理姉)と討論を重ね、苦肉の策をまとめた
それをアディに提案すると、こころよく快諾された

その案とは素直に、聖王十二将を採用し、聖王軍の主力たちにその称号を与える
一方残りの席は故人と、恩人に与え、席を埋めてしまい、争えないようにする、というものだった
九将(公式設定)はすぐに定まった。すでにその名声は伝説と化しており、名誉の死を遂げたものも多く、争いが起きようもない

問題は残りの三名だった。将軍に心当たりはなく、アディと娘にゆだねることにした
一人目はドーラを上げた。彼女の死を悼み、その息子グゥエインのために、その席を空けておきたいと言う

二人目はリザードマンの男を上げた。傷だらけの背中が印象的な大男で、アディはその背中を一目見たことがあるだけだという。
一目見ただけの、リザードマンに称号を与えるのか?と問いただすと、アディは困ったようすで、ただ悲しそうに見えたから、と言った
将軍は困り果てたが、近兵にリザードマンについて調査させた。

調査メモにはおそらくリキという名前のリザードマンのことで、すでに戦死したとかいてある
リキは採石場で働かされていた奴隷で、兵力が足りないので徴兵された。
言葉があまり理解できないうえ、人間を憎んでいるらしく素行は悪かった。リザードマンに背後を任せるのは危険すぎるので、常に最前列に立たされ、背後から監視された

戦場では投擲物や突進するモンスターの壁になり、日に日に負傷。ある夜吐血を繰り返して、寒さに耐えきれずに死んだ
戦奴の扱いだったので遺体は持ち帰ることなく、駐屯地に掘った穴に埋められたらしい
リキには気の毒だが、適切な運用だと将軍は評した、

しかし二人に見せると、アディがめそめそし始めた。娘はアディを慰めようとして「何か称号を上げたほうがいいんじゃない?」と言ってきた
将軍は悩んだが、すでに死んでいて素性が明らかでないのは逆に好都合かもしれない。遺品も遺体もないので、事実を追求することもできない
勇敢なリザードマンがいて、戦場で壁になって名誉の死を遂げた、と強弁できなくない

三人目はアディが奴隷だったころに親友だったゴブリンの名を挙げた。名前はヨンク
やせ細った少年のゴブリンで、当時奴隷だったアディに出会う。
言葉も通じないのに、なぜか打ち解け、彼のことが理解できたという
ヨンクは多産のゴブリンの生まれで、体が小さかったので、口減らしのために売られてきた。名前は何かの番号らしい
ヨンクはアディと共に働き、小食だからといって少ない食料をアディに差し出した。それがたたって出会って、僅か二年で病弱死したそうだ
将軍はそれを聞いてまた困ったが、娘には「アディらしい人選だと思わない?」と耳打ちされた。

将軍は頭を掻きながら考えた。聖王十二将などどうでもよいが、その称号を与えるということは名声に直結する。聖王が言う三名は勲功の証拠が乏しく、やはり不適格だといわざるを得ない。
しかし聖王がいった「グゥエインのために席をあけておきたい」というのは実は妙案ではないかと思えてきた。その称号を持つ人物が誰か追求しづらいし、前述の英雄9名より格差をつけられる。

こうして残りの三将は、恩人的位置づけの彼らのために、空白とすることに決まった。

そうして長い年月が経つと、その人たちの名前は忘れられていき、その称号が空白であることに誰も気を止めなくなっていった